
不動産の場所を確認せずに遺産分割協議をする怖さ|数代後にトラブルを生む「クサビ地」に注意
相続が発生したとき、不動産について遺産分割協議をする場面があります。
「この土地は長男が相続する」
「この土地は長女が相続する」
「評価額が低い土地だから、誰が取得しても大きな問題はない」
このように、不動産を地番や固定資産税評価額だけで見て、話し合いを進めてしまうことがあります。
しかし、不動産の場所を確認しないまま遺産分割協議をすることは、実はとても危険です。
なぜなら、不動産は一筆ごとに独立した登記記録がありますが、現実の利用状況は一筆ごとにきれいに分かれているとは限らないからです。
たとえば、一体の敷地として利用している自宅の中に、複数の地番が含まれていることがあります。
建物の敷地、庭、駐車場、通路、私道、畑、山林、隣地との境の細い土地などが、それぞれ別の一筆になっていることがあります。
相続人がその場所や利用状況を確認しないまま、「評価額が低いからこの土地は別の相続人へ」「小さい土地だから適当に分けてもよい」と考えてしまうと、後々大きなトラブルになることがあります。
特に怖いのは、一体で利用している土地の一部だけを別の人が相続してしまうケースです。
そのときは相続人同士の関係が良くても、数代後には相続人が増え、関係者が遠くなり、売却も建替えも管理も難しくなることがあります。
この記事では、このような土地を便宜上「クサビ地」と呼びます。
小さな一筆が、後の世代で不動産全体に打ち込まれたクサビのように残り、処分や利用の障害になるという意味です。
この記事では、遺産分割協議において不動産の場所を確認しないことの危険性、一体利用地の一部を別の人が相続するリスク、価値がないと思っていた土地が後々トラブルになる理由について、司法書士の視点から解説します。
遺産分割協議は「地番の分配」ではありません
遺産分割協議とは、亡くなった方の財産を、相続人全員の話し合いでどのように分けるかを決める手続きです。
不動産がある場合には、土地や建物について、誰が取得するのかを決めることになります。
このとき、固定資産税の通知書や名寄帳を見ながら、「この地番は長男」「この地番は長女」「この地番は母」というように分けることがあります。
しかし、不動産の遺産分割協議は、単なる地番の分配ではありません。
その土地がどこにあるのか。
どの土地と一体で利用されているのか。
建物の敷地に含まれているのか。
道路や通路として使われているのか。
隣地と接しているのか。
将来売却や建替えをするときに必要な土地なのか。
こうした事情を確認したうえで、誰が取得すべきかを決める必要があります。
書類上は一筆ずつ別の土地に見えても、現実には一体の不動産として使われていることがあります。
その一部だけを別の相続人が取得すると、後で不動産全体の利用に支障が出ることがあります。
一体で利用している土地が複数筆に分かれていることはよくあります
相続不動産でよくあるのが、一見一つの敷地に見える土地が、登記上は複数の筆に分かれているケースです。
たとえば、自宅の敷地として使っている土地が、実は3筆に分かれていることがあります。
一筆目には建物が建っている。
二筆目は庭として使っている。
三筆目は駐車場や通路として使っている。
現地では一体の自宅敷地にしか見えません。
しかし、登記上はそれぞれ別の土地です。
固定資産税の課税明細書にも、地番ごとに分かれて記載されています。
ここで、場所を確認しないまま、「建物が載っている土地は母、庭の土地は長男、駐車場の土地は長女」と分けてしまうとどうなるでしょうか。
その時点では、家族間で特に問題が起きないかもしれません。
母も長男も長女も仲が良く、「とりあえず名義を分けただけ」という感覚かもしれません。
しかし、数年後、母が亡くなり、長男も亡くなり、長女も亡くなったらどうでしょうか。
それぞれの土地の持ち主が、その子どもや配偶者へ移っていきます。
すると、もともとは一体で使っていた自宅敷地が、まったく別々の相続人グループの所有になってしまうことがあります。
これが、後の世代で深刻なトラブルを生む原因になります。
「クサビ地」とは何か
この記事でいう「クサビ地」とは、法律上の正式な用語ではありません。
一体で利用している土地の中に、別の人が所有する一筆が入り込み、後の売却、建替え、管理、通行、利用の妨げになる土地を、分かりやすく表現した言葉です。
たとえば、自宅敷地の真ん中や端に、小さな一筆だけ別名義の土地が残っているケースです。
その土地がないと駐車場が使えない。
その土地がないと道路に出られない。
その土地がないと建物の再建築に支障がある。
その土地がないと敷地全体として売却しにくい。
このような土地は、面積や評価額だけを見ると小さく見えるかもしれません。
しかし、不動産全体から見ると非常に重要な意味を持つことがあります。
小さな土地が、大きな土地全体の利用を止めてしまうことがあります。
だから「クサビ地」なのです。
最初の相続で場所を確認していれば、「この一筆は自宅敷地と一体だから、同じ人が取得した方がよい」と判断できたかもしれません。
しかし、場所を確認しないまま地番だけで分けてしまうと、その危険に気づけません。
価値がないと思った土地ほど危ないことがあります
遺産分割協議では、評価額の高い土地や建物に注目が集まりがちです。
自宅、収益物件、市街地の土地、預貯金などについては、誰が取得するか慎重に話し合います。
一方で、固定資産税評価額が低い土地、小さな土地、山林、畑、私道、通路、雑種地などは、軽く扱われることがあります。
「これは価値がなさそうだから、誰でもいい」
「固定資産税も安いから、とりあえず別の人の名義でいい」
「小さい土地だから、あまり気にしなくていい」
このような判断が、後で問題になることがあります。
土地の価値は、固定資産税評価額だけでは判断できません。
たとえば、評価額が低い私道持分でも、自宅の通行や建替えに必要な土地であれば、非常に重要です。
細長い土地でも、隣地との境界や通路に関係していれば、後の売却や利用に影響します。
山林の一部でも、隣接地の所有者にとっては必要な土地かもしれません。
畑の一部でも、周辺農地と一体で利用されている可能性があります。
つまり、「価値がない土地」と「意味がない土地」は違います。
相続時には価値がないように見えた土地でも、後々トラブルの原因になることがあります。
そのときは仲が良くても、数代後は分かりません
相続のときに怖いのは、現在の相続人同士の関係だけで判断してしまうことです。
兄弟姉妹の仲が良い。
親子で話が通じる。
親族同士だから協力してくれる。
このような前提で、不動産を共有にしたり、一体利用地の一部を別の相続人に分けたりすることがあります。
しかし、不動産は長く残ります。
現在の相続人が亡くなると、その持分や所有権は次の世代へ移ります。
次の世代では、いとこ同士になります。
さらに次の世代では、ほとんど面識のない親族になることもあります。
場合によっては、相続人の配偶者や、その子ども、そのまた子どもが関係者になります。
そうなると、「昔から家族で使っていた土地だから協力してくれるはず」という前提は通用しません。
売却したいときに連絡が取れない。
建替えに必要な承諾がもらえない。
持分を買い取りたいが金額で揉める。
そもそも誰が相続人か分からない。
このような問題が起きることがあります。
最初の遺産分割協議では小さな問題に見えても、数代後には大きな問題になります。
だからこそ、相続時に不動産の場所と利用状況を確認することが重要です。
自宅敷地の一部を別の人が相続する怖さ
もっとも分かりやすいのは、自宅敷地の一部を別の相続人が取得してしまうケースです。
たとえば、亡くなった父が所有していた自宅の土地が、登記上は4筆に分かれていたとします。
そのうち1筆に建物が建っており、別の1筆は庭、別の1筆は駐車場、別の1筆は道路に出る通路として使われていました。
相続人が場所を確認しないまま、固定資産税評価額を見て、土地ごとに分けてしまったとします。
建物敷地は母、庭は長男、駐車場は長女、通路部分は次男というように分けた場合、現実には自宅全体が複数人の所有地にまたがることになります。
この状態で母が住み続ける間は、問題が表面化しないかもしれません。
しかし、母が亡くなり、自宅を売却しようとしたとき、すべての土地の所有者の協力が必要になります。
通路部分の所有者が協力しなければ、買主は安心して購入できません。
駐車場部分の所有者が別に売りたいと言えば、自宅全体の価値に影響します。
庭部分の所有者が亡くなり、その相続人が多数いる場合、売却手続きは一気に複雑になります。
自宅の敷地は、一体で使っている土地をできる限り同じ名義にまとめておくことが重要です。
少なくとも、遺産分割協議の前に、どの筆が自宅利用に関係しているのかを確認すべきです。
私道持分や通路部分を軽く見てはいけません
相続不動産で特に見落とされやすいのが、私道持分や通路部分です。
固定資産税評価額が低かったり、非課税に近かったりするため、相続人が重要性に気づかないことがあります。
しかし、私道や通路は、不動産の利用に直結します。
その土地があるから道路に出られる。
その持分があるから通行や掘削の説明ができる。
その道路部分があるから建物の建替えや売却が進めやすい。
このようなことがあります。
逆に、私道持分や通路部分が別名義になっていたり、相続登記が未了のまま残っていたりすると、売却や融資、建替えの場面で問題になります。
買主や金融機関から、道路関係の整理を求められることがあります。
道路部分の所有者や共有者と連絡が取れないと、手続きが止まることもあります。
私道や通路は、評価額だけで見ると小さな土地に見えます。
しかし、実務上は非常に重要です。
遺産分割協議の前に、その地番がどこの土地なのか、どの不動産と一体で考えるべきなのかを確認する必要があります。
農地や山林でも「一体利用」は起こります
一体利用の問題は、自宅敷地だけではありません。
農地や山林でも起こります。
たとえば、複数の畑を一体として耕作している場合があります。
登記上は複数筆に分かれていても、現地では一つの農地のように使われていることがあります。
そのうち一筆だけを別の相続人が取得すると、将来の貸付、売却、転用、管理に影響する可能性があります。
山林でも同じです。
一体の山として管理されている土地が、複数の地番に分かれていることがあります。
境界がはっきりしないまま、一部だけ別名義になると、将来の伐採、管理、隣地との調整、災害対応で問題になることがあります。
農地や山林は、市街地の宅地よりも場所のイメージがつきにくいことが多いです。
相続人が遠方に住んでいる場合、実際にどこにある土地なのか分からないまま協議が進むこともあります。
だからこそ、地番を地図上の場所に結び付けることが大切です。
共有名義も将来のクサビになります
不動産の場所を確認しないまま遺産分割協議をすると、「とりあえず共有にしておく」という選択をすることがあります。
法定相続分どおりに共有する。
兄弟で2分の1ずつ共有する。
母と子どもたちで共有する。
このような登記は、相続時には公平に見えることがあります。
しかし、不動産の共有は、将来の管理や処分を難しくする原因になります。
共有者の一人が売却に反対すれば、全体の売却が難しくなります。
共有者の一人が亡くなれば、その持分についてさらに相続が発生します。
共有者が増え、連絡先が分からなくなり、意思確認が難しくなることがあります。
特に、一体で利用している土地を筆ごとに共有割合を変えて登記してしまうと、後で整理するのが大変です。
共有名義は、その場の公平感を満たすことがあります。
しかし、不動産の場所や利用状況を確認しないまま共有にすると、将来のクサビになることがあります。
「誰も使わない土地」も放置すると問題になります
相続人が「誰も使わない土地だから問題ない」と考えることもあります。
しかし、誰も使わない土地ほど、放置されやすく、後で問題になることがあります。
草木が伸びて近隣に迷惑をかける。
不法投棄される。
隣地との境界が分からなくなる。
道路や水路との関係が不明になる。
固定資産税だけが発生し続ける。
相続登記がされないまま、さらに次の相続が発生する。
このような問題は、土地の価値が高いか低いかに関係なく起こります。
価値がないと思っていた土地でも、後々、管理責任や近隣トラブルの原因になることがあります。
場所を確認して初めて、「これは管理が必要な土地だ」「これは隣地と相談すべき土地だ」「これは国庫帰属制度や売却可能性を検討すべき土地だ」と判断できます。
遺産分割協議書に地番だけを書く怖さ
遺産分割協議書には、不動産を特定するために、所在、地番、地目、地積などを記載します。
登記手続きでは、登記記録に基づいて正確に記載することが重要です。
しかし、相続人にとって怖いのは、遺産分割協議書に地番だけがきれいに並んでいても、その土地がどこなのか分からないまま署名押印してしまうことです。
後から見て、「この地番は自宅の通路だった」「この地番は庭だった」「この地番は隣地と一体で使っていた」「この地番は道路部分だった」と分かることがあります。
遺産分割協議書に実印を押し、相続登記が完了すると、後から簡単にやり直せるとは限りません。
もちろん、相続人全員が合意すれば修正や再分割のような対応を検討できる場合もあります。
しかし、時間が経ち、相続人が亡くなり、次の世代に移ると、全員の合意を取ることが難しくなります。
だからこそ、遺産分割協議書に署名押印する前に、不動産の場所を確認することが大切です。
数代後のトラブルは、最初の相続で防げることがあります
不動産の相続トラブルは、発生した時点で解決しようとすると非常に難しいことがあります。
所有者が多数に分かれている。
一部の所有者と連絡が取れない。
相続登記が何代もされていない。
共有持分が細かく分かれている。
一体利用地の中に別名義の土地が入り込んでいる。
こうなってから整理しようとすると、戸籍収集、相続人調査、協議、登記、費用負担、測量、境界確認など、多くの手間がかかります。
しかし、最初の相続の段階で場所を確認し、利用状況を把握し、誰が取得するのがよいかを考えていれば、防げたトラブルもあります。
自宅と一体の土地は同じ人が取得する。
私道持分は建物敷地を取得する人に合わせる。
農地や山林は管理できる人や処分方針を明確にする。
使わない土地についても、放置せず方針を決める。
これらは、遺産分割協議の段階で検討すべきことです。
相続は、今の相続人だけの問題ではありません。
次の世代、さらにその次の世代に不動産をどう残すかという問題でもあります。
不動産の場所確認は、遺産分割協議の前提です
遺産分割協議では、相続人全員が納得して財産の分け方を決めることが大切です。
しかし、不動産については、相続人全員がその土地の場所と利用状況を理解しているとは限りません。
土地の場所を知らないまま協議することは、見えない財産を分けるようなものです。
預貯金であれば金額が見えます。
株式であれば銘柄や評価額が見えます。
しかし、土地は、場所が分からなければ、本当の意味で見えているとはいえません。
不動産は、場所、形、接道、隣地との関係、現況、利用状況によって意味が変わります。
だからこそ、遺産分割協議の前に、少なくとも地図上で場所を確認しておくことが重要です。
場所が分かれば、相続人全員が同じ情報を見ながら話し合えます。
場所が分かれば、専門家に相談しやすくなります。
場所が分かれば、将来の管理や処分まで考えた分け方ができます。
司法書士に相談するメリット
司法書士は、不動産の相続登記、相続人調査、法定相続情報一覧図の作成、遺産分割協議書の作成支援を行う専門家です。
相続した不動産について、誰が相続人なのか、どの不動産が相続財産なのか、誰が取得する内容にすべきか、登記に必要な書類は何かを整理できます。
ただし、司法書士に相談する場合でも、土地の場所が分かっていると、相談はより具体的になります。
自宅と一体の土地なのか。
私道持分なのか。
農地や山林なのか。
売却予定がある土地なのか。
管理が必要な土地なのか。
こうした事情を踏まえて、遺産分割協議書の内容や相続登記の方針を検討できます。
司法書士法人JOネットワークでは、不動産の相続登記、相続人調査、法定相続情報一覧図の作成、遺産分割協議書の確認など、相続した不動産に関するご相談を承っています。
特に、不動産が複数ある場合、自宅敷地が複数筆に分かれている場合、私道や通路が含まれる場合、遠方の土地がある場合には、早めに整理することをおすすめします。
まとめ
遺産分割協議において、不動産の場所を確認しないまま話し合いを進めることは危険です。
不動産は、登記上は一筆ごとに分かれています。
しかし、現実には複数の筆を一体で利用していることがあります。
自宅の敷地、庭、駐車場、通路、私道、農地、山林などが、登記上は別々の地番になっていることがあります。
一体で利用している土地の一部だけを別の人が相続すると、その時点では問題がなくても、数代後に大きなトラブルになることがあります。
小さな一筆、評価額の低い土地、価値がないと思っていた土地が、後々、不動産全体の売却、建替え、管理、通行、境界確認の障害になることがあります。
この記事でいう「クサビ地」は、まさにそのような土地です。
最初の相続では軽く見られた土地が、後の世代で不動産全体に打ち込まれたクサビのように残り、関係者を悩ませることがあります。
このようなトラブルを防ぐためには、遺産分割協議の前に、相続した不動産の場所を確認することが大切です。
固定資産税通知書、課税明細書、名寄帳、登記情報などに記載された地番をもとに、その土地が地図上のどこにあるのかを確認しましょう。
場所が分かれば、自宅と一体の土地なのか、私道なのか、農地や山林なのか、将来売却や管理で問題になりそうな土地なのかが見えてきます。
相続人全員が同じ地図を見ながら協議できれば、後の世代にトラブルを残しにくくなります。
相続した土地の場所が分からない方は、まずはLR-Visionの無料調査をご利用ください。
LR-Visionでは、固定資産税の通知書や名寄帳、登記情報などに記載された地番をもとに、相続した土地の場所を地図上で確認できる形にしてご案内します。
遺産分割協議をする前に、まずは場所の確認から始めてみてください。
固定資産税の通知書や名寄帳に地番は書かれているけれど、実際にどこにある土地なのか分からない。そんな方のために、地番をもとに土地の場所を地図上で確認できる形にしてご案内します。
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