遺言の撤回・無効

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遺言の撤回

 遺言は、遺言者の最終意思を尊重する制度ですから、いったん遺言をした後に遺言者の意思が変わった場合にはいつでも撤回できます。

 遺言者はこの撤回できる権利を放棄することはできません(民法1026条)。撤回となる場合は次のとおりです。

①遺言による撤回

 遺言者はいつでも新たな遺言を行うことで、前に行った遺言の全部又は一部を撤回することができます(同1022条)。

②抵触する遺言による撤回の擬制

 前の遺言内容と抵触する後の遺言がなされたときは、抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます(同1023条1項)。

③抵触する遺言者の行為による撤回の擬制

 遺言作成後に遺言内容と抵触する遺言者の生前処分等がなされたときは、抵触する部分については、当該生前処分等によって遺言を撤回したものとみなされます(同1023条2項)。具体的には、遺言者が「甲不動産をAに遺贈する」という遺言をした後、遺言者が生前に当該甲不動産をBに譲渡した場合などです。

④遺言書又は目的物の破棄による撤回の擬制

遺言者が故意に遺言書又は目的物を破棄したときは、その破棄した部分について遺言を撤回したものとみなされます(同1024条)。

遺言の無効

 遺言の作成過程において、方式違反がある場合、遺言者が遺言能力を欠く場合、遺言意思に瑕疵がある場合は遺言が無効となります(同960条、961条、963条、95条)。また、遺言の内容に問題がある場合(公序良俗や強行法規に反する内容、法定遺言事項が記載されていない内容)も無効となります。さらに、遺言が効力を生じても、遺贈特有の無効事由がある場合には遺贈は効力を生じません。具体的には次のとおりです。

① 遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したとき(同994条1項)。
② 停止条件付遺贈において、受遺者がその条件成就前に死亡したとき(遺言者が別段の意思表示をしていないときに限る、同994条2項)
③ 遺贈の目的である権利が遺言者の死亡時において相続財産に属しなかったとき(同996条)。

 なお、遺言書の作成にあたり注意していただきたいのは、上記の①の「受遺者が先に死亡」、②の「受遺者がその条件成就前に死亡」した場合に遺言の効力が生ぜず、再度、遺言をしなければならない点です。これについては、遺言内容を以下のように記載すれば上記の①及び②を回避することができます。

(例)遺言書作成を考えている甲に法定相続人として配偶者(妻)乙と子A及びBがいます。さらにAには子C(甲の孫)がいます。甲は、自分が将来亡くなったときは、住んでいる家(不動産)を乙に相続(遺贈)させ、万一、乙が甲より先に亡くなった場合はAに、乙もAも先に亡くなった場合はCに相続(遺贈)させたいと考えています。このような場合には遺言内容を以下のように記載すれば上記の①及び②を回避することができます。

第1条 遺言者は、遺言者の有する次の不動産を、遺言者の妻B(昭和〇〇年〇月〇〇日生)に相続させる。

(不動産)

所  在 東京都〇〇区〇〇町〇丁目〇〇番地〇

家屋番号 〇〇番〇

種  類 居宅

構  造 鉄筋コンクリート陸屋根2階建

床 面 積 1階 〇〇.〇〇㎡

2階 〇〇.〇〇㎡

第2条 遺言者は、遺言者の妻Bが遺言者より先に又は遺言者と同時に死亡したときは、第1条によりBに相続させるとした不動産を、遺言者の子A(平成〇〇年〇月〇〇日生)に相続させる。

第3条 遺言者は、遺言者の妻B及び子Aがともに遺言者より先に又は遺言者と同時に死亡したときは、第1条によりBに相続させるとした不動産を、遺言者の孫のC(平成〇〇年〇月〇〇日生)に相続させる。

 このように、第2条及び第3条を加えることによって再度遺言を行う手続きを回避することができます。第2条及び第3条とも「遺言者の死亡以前における死亡」を停止条件とする停止条件付相続(遺贈)であり、第1条の主位的遺言に対し第2条及び第3条の遺言のことを予備的遺言(又は補充遺言)といいます。

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