
遺言の撤回・無効とは?遺言を書き直す方法と注意点を司法書士が解説
遺言書を作成した後に、家族関係や財産状況が変わることがあります。
たとえば、遺言書を作った後に不動産を売却した、財産を渡す予定だった人が先に亡くなった、相続人との関係が変わった、再婚した、子や孫が生まれた、財産の内容が大きく変わった、といった場合です。
このようなとき、以前作成した遺言書をそのままにしておくと、亡くなった後に相続人間で解釈の違いが生じることがあります。
遺言は、遺言者の最終意思を実現するための制度です。そのため、遺言者は、いったん遺言書を作成した後でも、いつでも遺言を撤回したり、内容を変更したりすることができます。
一方で、遺言書には厳格な方式が定められており、作成方法を誤ると、せっかく作った遺言が無効になることもあります。
この記事では、遺言の撤回とは何か、どのような場合に撤回したものと扱われるのか、遺言が無効になるのはどのような場合か、遺言を書き直すときに注意すべき点を、司法書士の実務の視点から整理します。
この記事で分かること
- 遺言の撤回とは何か
- 遺言を撤回・変更する具体的な方法
- 前の遺言と後の遺言が矛盾した場合の考え方
- 遺言書や遺贈の目的物を破棄した場合の効果
- 遺言が無効になる主なケース
- 受遺者が先に亡くなった場合の注意点
- 予備的遺言を入れる意味
- 不動産を遺言に入れる場合の注意点
遺言の撤回とは
遺言の撤回とは、遺言者が過去に作成した遺言の全部または一部の効力を、将来に向けて取り消すことです。
遺言は、遺言者の死亡によって効力が発生します。つまり、遺言者が生きている間は、まだ最終的な効力は発生していません。そのため、遺言者は、自分の意思が変わった場合には、いつでも遺言を撤回することができます。
遺言者は、この撤回できる権利を放棄することができません。たとえば、誰かとの約束で「もう遺言を変更しない」と書面を作ったとしても、遺言者は後から遺言を撤回・変更することができます。
これは、遺言制度が遺言者の最終意思を尊重する制度だからです。
遺言の撤回と無効の違い
遺言の撤回と遺言の無効は、似ているようで意味が違います。
遺言の撤回は、もともと有効に作成された遺言について、遺言者が後から効力を失わせるものです。たとえば、以前の遺言を撤回する新しい遺言書を作った場合や、前の遺言と矛盾する内容の新しい遺言書を作った場合です。
一方、遺言の無効は、遺言書の作成時点で方式や能力などに問題があり、そもそも法律上の効力が認められないものです。たとえば、自筆証書遺言なのに本文が自筆でない、日付がない、遺言能力がない状態で作成された、といった場合です。
| 区分 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 撤回 | 有効に作成された遺言を、後から効力を失わせること | 新しい遺言書で前の遺言を撤回する |
| 無効 | 作成時点の問題により、遺言として効力が認められないこと | 方式違反、遺言能力の欠如、内容の不明確さなど |
相続実務では、「古い遺言が撤回されているのか」「そもそも遺言が無効なのか」によって、その後の手続きが変わります。
遺言を撤回する主な方法
遺言の撤回には、いくつかの方法があります。代表的なものは次の4つです。
- 新しい遺言によって撤回する
- 前の遺言と矛盾する新しい遺言を作成する
- 遺言内容と矛盾する生前処分をする
- 遺言書または遺贈の目的物を故意に破棄する
順番に見ていきます。
1 新しい遺言による撤回
もっとも分かりやすい方法は、新しい遺言書を作成して、前の遺言を撤回する方法です。
たとえば、次のように書きます。
遺言者は、令和○年○月○日付けで作成した遺言の全部を撤回する。
前の遺言の一部だけを撤回したい場合には、撤回する範囲を明確に記載します。
遺言者は、令和○年○月○日付け遺言のうち、第2条の内容を撤回する。
このように、全部を撤回するのか、一部を撤回するのかを明確にしておくことが大切です。
注意したいのは、遺言の撤回も遺言の方式に従って行う必要があるという点です。単にメモに「前の遺言はやめる」と書いただけでは、遺言としての方式を満たさず、撤回の効力が問題になることがあります。
撤回する場合には、自筆証書遺言、公正証書遺言など、法律上認められた遺言の方式で行う必要があります。
2 前の遺言と矛盾する後の遺言による撤回
前に作成した遺言と、後に作成した遺言の内容が矛盾する場合、その矛盾する部分については、後の遺言によって前の遺言が撤回されたものと扱われます。
たとえば、前の遺言に「自宅不動産を長男に相続させる」と書いていたとします。その後、新しい遺言で「自宅不動産を配偶者に相続させる」と書いた場合、自宅不動産については、後の遺言の内容が優先されます。
ただし、前の遺言のすべてが当然に無効になるわけではありません。矛盾している部分だけが撤回されたものと扱われます。
そのため、複数の遺言書が残っている場合には、どの部分が矛盾しているのか、どの部分が併存するのかを丁寧に確認する必要があります。
相続開始後に古い遺言書と新しい遺言書が両方見つかった場合、相続人の間で「どちらが有効なのか」という争いになることがあります。遺言を書き直す場合には、古い遺言を全部撤回するのか、一部だけ残すのかをはっきり書いておくことが重要です。
3 遺言内容と矛盾する生前処分による撤回
遺言を作成した後、遺言者がその内容と矛盾する行為をした場合にも、遺言が撤回されたものと扱われることがあります。
たとえば、「甲土地をAに遺贈する」という遺言を作成した後、遺言者が生前にその甲土地をBに売却した場合です。
この場合、遺言者の死亡時点では、甲土地はすでに遺言者の財産ではありません。Aに遺贈することはできませんので、その部分の遺言は効力を持たないことになります。
また、売却だけでなく、贈与、交換、信託、担保設定など、遺言内容と両立しない生前行為がある場合にも、撤回の問題が生じます。
不動産を遺言に入れる場合には、遺言作成後の売却や贈与によって、遺言の一部が実現できなくなることがあります。財産内容が変わった場合には、遺言書の見直しが必要です。
4 遺言書または目的物の破棄による撤回
遺言者が故意に遺言書を破棄した場合、その破棄した部分について遺言を撤回したものと扱われます。
たとえば、自筆証書遺言を破り捨てる、内容の重要部分を黒く塗りつぶす、署名押印部分を切り取るといった行為です。
また、遺贈の目的物を故意に破棄した場合も、その目的物に関する遺言を撤回したものと扱われることがあります。
ただし、破棄による撤回には注意が必要です。遺言者本人が故意に破棄したのか、第三者が破棄したのか、誤って破損したのかによって結論が変わることがあります。
また、公正証書遺言の場合、原本は公証役場に保管されています。手元の正本や謄本を破棄しても、それだけで公正証書遺言そのものを撤回したことにはなりません。公正証書遺言を撤回したい場合には、新しい遺言書を作成して撤回する方法が安全です。
遺言を書き直すときの注意点
遺言を書き直すときには、次の点に注意が必要です。
- 前の遺言を全部撤回するのか、一部だけ変更するのかを明確にする
- 日付を正確に記載する
- 財産の表示を正確にする
- 誰に何を相続させるのかを具体的に書く
- 前の遺言と矛盾する部分を残さない
- 受遺者や相続人が先に亡くなった場合を想定する
- 遺留分に配慮する
- 遺言執行者を定めるか検討する
遺言は何度でも書き直すことができます。しかし、複数の遺言書が残ると、相続開始後に相続人が内容を照合しなければならなくなります。
特に、自筆証書遺言を何度も作成している場合、古い遺言書が自宅の引き出しから見つかる、別の場所から新しい遺言書が見つかる、といったことがあります。
遺言を書き直す場合には、最新の意思が明確に分かるようにしておくことが、後日の紛争防止につながります。
遺言が無効になる主なケース
遺言は、法律で定められた方式に従って作成しなければなりません。方式を満たしていない遺言は、遺言者の意思があったとしても、法律上の効力が認められないことがあります。
遺言が無効になる主なケースは、次のとおりです。
1 遺言の方式に違反している場合
自筆証書遺言であれば、原則として本文を自筆で書く必要があります。日付、氏名、押印も必要です。
日付が「令和○年○月吉日」となっている場合や、本文がパソコンで作成されている場合、押印がない場合などは、遺言の有効性が問題になることがあります。
なお、自筆証書遺言では、財産目録については一定の方式を守ればパソコンで作成したものなどを添付することができます。ただし、その場合でも各ページへの署名押印など、必要な形式を守る必要があります。
2 遺言能力がない場合
遺言をするには、遺言の内容を理解し、その結果を判断できる能力が必要です。
高齢であることだけを理由に遺言が無効になるわけではありません。しかし、認知症が進行していた場合、入院中で意思確認が難しかった場合、遺言の内容が複雑で本人が理解していたか疑問がある場合などには、遺言能力が争われることがあります。
公正証書遺言であっても、絶対に無効にならないわけではありません。公証人が関与しているため有効性は高まりやすいですが、作成当時の判断能力が争われることはあります。
3 遺言の内容が不明確な場合
遺言の内容が不明確な場合も、手続きが進められないことがあります。
たとえば、「土地を長男に任せる」「財産は家族でうまく分ける」「世話をしてくれた人に相応のものを渡す」といった表現だけでは、誰にどの財産を取得させるのかが明確ではありません。
不動産については、所在、地番、家屋番号などを登記記録に合わせて正確に記載することが重要です。財産の特定が不十分だと、相続登記や遺贈の登記が進まないことがあります。
4 公序良俗や強行法規に反する内容の場合
遺言の内容が公序良俗や強行法規に反する場合、その部分の効力が問題になることがあります。
また、遺言で定めることができる事項には限界があります。遺言に希望や思いを書くことはできますが、法律上の効力を持つ事項と、単なる付言事項として扱われる事項は区別して考える必要があります。
受遺者が先に亡くなった場合
遺言書で財産を受け取る予定だった人が、遺言者より先に亡くなることがあります。
この場合、その人に対する遺贈は、原則として効力を生じません。
たとえば、「友人Aに土地を遺贈する」という遺言を作成していたところ、Aが遺言者より先に亡くなった場合、その遺贈は効力を生じないのが原則です。
また、停止条件付遺贈の場合に、条件が成就する前に受遺者が亡くなったときも、遺言者が別段の意思表示をしていない限り、遺贈の効力が問題になります。
そのため、遺言書を作成するときには、「財産を受け取る予定の人が先に亡くなった場合に、次に誰へ渡すのか」を決めておくことが大切です。
予備的遺言を入れておく意味
受遺者や相続させたい人が先に亡くなった場合に備えて、遺言書に予備的な内容を入れておくことがあります。
これを、予備的遺言、または補充遺言といいます。
たとえば、次のような書き方です。
第1条 遺言者は、遺言者の有する下記不動産を、遺言者の妻Aに相続させる。
第2条 遺言者は、妻Aが遺言者より先に、または遺言者と同時に死亡したときは、前条の不動産を、遺言者の長男Bに相続させる。
第3条 遺言者は、妻Aおよび長男Bがいずれも遺言者より先に、または遺言者と同時に死亡したときは、第1条の不動産を、遺言者の孫Cに相続させる。
このように定めておくことで、最初に財産を受け取る予定だった人が先に亡くなった場合でも、次に誰が取得するのかを明確にできます。
遺言書は、作成した時点では問題がなくても、時間の経過によって家族構成や財産状況が変わります。予備的遺言を入れておくことで、再作成が必要になる場面を減らし、相続開始後の混乱を防ぎやすくなります。
不動産を遺言に入れる場合の注意点
遺言書に不動産を記載する場合には、特に正確性が重要です。
不動産は、住所ではなく登記記録上の所在、地番、家屋番号などで特定されます。日常的に使っている住所だけを書いても、登記申請で不動産を特定できないことがあります。
たとえば、自宅の住所が「東京都○○区○○一丁目1番1号」であっても、登記記録上の土地の所在・地番や建物の家屋番号は異なることがあります。
また、土地が複数筆に分かれている、私道持分がある、マンションの敷地権がある、古い建物が登記されたまま残っている、といった場合には、記載漏れが起こりやすくなります。
遺言書に不動産を記載するときには、登記事項証明書や固定資産税資料を確認し、対象不動産を正確に特定することが大切です。
相続した土地の場所が分からない場合や、地番と住所が一致しない場合には、地番情報や公図、登記情報を確認しながら整理する必要があります。
遺言がある場合の相続登記
遺言書に不動産を相続させる内容がある場合、遺産分割協議をしなくても、その遺言に基づいて相続登記を進められることがあります。
ただし、遺言書の内容が不明確であったり、不動産の表示が現在の登記記録と一致していなかったり、複数の遺言書が残っていたりすると、法務局での登記手続きに支障が出ることがあります。
また、遺贈なのか、相続させる遺言なのか、受け取る人が相続人なのか第三者なのかによって、登記手続きの進め方が変わる場合があります。
遺言書を作成する段階では、「思いを残す」だけでなく、実際に相続登記や財産承継の手続きで使える内容になっているかを確認することが重要です。
遺言を見直した方がよいタイミング
遺言書は、一度作成したら終わりではありません。次のような事情があった場合には、見直しを検討した方がよいでしょう。
- 結婚、離婚、再婚をした
- 子や孫が生まれた
- 相続人との関係が変わった
- 財産を渡す予定だった人が亡くなった
- 不動産を売却、購入、贈与した
- 会社や事業を承継する予定が変わった
- 相続税や遺留分への配慮が必要になった
- 古い自筆証書遺言が残っている
- 複数の遺言書があり、内容が整理されていない
遺言書を見直すことで、相続開始後の争いや手続きの停滞を防ぎやすくなります。
司法書士に相談した方がよいケース
遺言の撤回・変更・無効について、次のような場合には専門家へ相談することをおすすめします。
- 古い遺言書を撤回して新しい遺言書を作りたい
- 前の遺言と新しい遺言の内容が矛盾している
- 自筆証書遺言の方式に不安がある
- 遺言者の判断能力について不安がある
- 不動産を遺言に入れたい
- 受遺者が先に亡くなった場合に備えたい
- 遺留分に配慮した遺言を作りたい
- 相続登記で使える遺言書にしたい
- 相続開始後に複数の遺言書が見つかった
遺言書は、形式が整っていること、内容が明確であること、相続開始後の手続きで使えることが大切です。
特に不動産が関係する遺言では、不動産の表示、取得させる人、予備的遺言、遺言執行者、遺留分への配慮などを総合的に確認する必要があります。
司法書士法人JOネットワークの遺言・相続サポート
司法書士法人JOネットワークでは、遺言書作成のご相談、遺言の見直し、相続登記、不動産の名義変更、相続関係の整理など、相続・遺言に関する手続きをサポートしています。
遺言書は、ご本人の意思を実現するための大切な書類です。しかし、方式や内容に不備があると、相続開始後にかえって紛争や手続きの停滞を招くことがあります。
「以前作った遺言を変更したい」「不動産を誰に残すか整理したい」「古い遺言書が有効か不安」「相続登記で使える遺言書にしたい」といった場合には、早めにご相談ください。
よくあるご質問
遺言書は一度作ると変更できませんか。
変更できます。遺言者は、いつでも遺言の全部または一部を撤回することができます。新しい遺言書を作成して、前の遺言を撤回・変更することができます。
新しい遺言書を作ると、古い遺言書はすべて無効になりますか。
必ずしもすべてが無効になるわけではありません。前の遺言と後の遺言が矛盾する部分について、後の遺言が優先されます。古い遺言を完全に撤回したい場合には、その旨を明確に書くことが大切です。
公正証書遺言の正本を破棄すれば撤回になりますか。
公正証書遺言の原本は公証役場に保管されています。手元の正本や謄本を破棄しただけでは、遺言そのものを撤回したことにはなりません。撤回したい場合には、新しい遺言書を作成する方法が安全です。
遺言で財産を渡す予定だった人が先に亡くなった場合はどうなりますか。
その人に対する遺贈は、原則として効力を生じません。誰かが先に亡くなった場合に備えるには、予備的遺言を定めておくことが有効です。
不動産を遺言に書くときは住所を書けばよいですか。
住所だけでは不十分なことがあります。不動産は、登記記録上の所在、地番、家屋番号などで特定する必要があります。登記事項証明書を確認して記載することが大切です。
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監修
司法書士法人JOネットワーク
相続登記、不動産登記、遺言書作成支援、相続関係の整理、金融機関・不動産会社向け登記実務支援などを取り扱う司法書士法人です。
